武蔵野美術大学 建築学科 土屋スタジオ
Department of Architecture, Musashino Art University
KIMIO TSUCHIYA STUDIO

大学内に潜む「森」なる要素を見つける。
「森」という定義の解釈は、物理的でも概念的でも構いません。
いつも以上に、これまで以上に、違う角度から、違う視座に立って、違う方向に掘り下げていく。
あらゆる存在、あらゆる事象、あらゆる感触を疑ってみてください。

大事なことは、これは一人で行う課題ではありません。
9人それぞれが既に携えている観念・主観・表現を出発点にして、キャンパスを歩き回って、色々な「森」を拾い集めてみましょう。
そしてそれをみんなで共有し、批評しあうことで、新たな視点を得て、そしてまた「森」を拾い集めに出てください。
それを繰り返してください。

1人では見ることも感じることもできない、未知なるキャンパス内の森を見つけてください。

大学内に潜む「森」なる要素をあぶり出す。
見つけてきた「森」なる要素の欠片を元に、自分たちがアクションを起こすことによって、初めて見出される・生み出される・更に踏み込んだ森なる要素を「あぶり出す」「創り出す」こと。

「森を見つける」「森をあぶり出す」から大学内における森の表現を制作。
場所や素材、構築方法、配置など、実験と制作を繰り返す。

2021
寒冷紗、木材、他

私たちは森と武蔵美の共通点を見つけるために大学内で森を感じる要素を探し出しました。

それを元に少しのアクションを加えることで森と大学との共通点を抽出します。例えば非常階段の階段表示を隠すことで迷い込みやすい森と同じ恐怖感を作り出したり、他学科の学生と糸電話することで得体の知れないものと出会うという森との共通点を見出しました。

そうして見つけた共通点からピックアップしたのは「気配」です。他学科の学生がどこで制作してるかを知ってはいても、実際にどういう一日を過ごしているかはわかりません。しかし実際に学校内を歩いた時にロッカーや落ちている画材から確かにそこにいた気配を感じました。その経験が、私たちが森に行った時に、跡や音から感じた生命の気配と繋がりました。

なので私たちはそうした「気配」を感じることのできる空間を製作しました。中央広場の垣根の中という普段は木と芝生しかない場所に操作を加えることで、自然と人が集まってくる空間になっています。垂木のボックスを20個ランダムに並べ寒冷紗で壁を作っていきます。何度も中を歩きながらボックスや寒冷紗の配置を決めていくことで、より迷い込みやすく得体の知れない森のイメージへと、近づけて行きました。

垂木と寒冷紗による同じ景色の繰り返しによって、視界がぼんやりした空間の中に迷い込みます。そしてそこで彷徨っている間に、寒冷紗の先にいる他者の「気配」に気がつきます。風で揺れる寒冷紗や寒冷紗に落ちる影によって、幻想的でありながら、得体の知れない怖さも感じさせます。その中で複数人が同じ空間を体験して、生命の気配を生みます。その行動が人それぞれの記憶と繋がり、森を追体験できる空間となっています。

この空間の中には様々な操作を行いました。私たちが作品制作前に色々なアクションしたことで見つけた、大学にある様々な森的要素を持ち込むことで、空間自体の気配を作り出しています。作品を点在させることで、森の中の生き物がそれぞれの生き方をしていることをイメージさせます。

またこの操作によって人がその場所を目指して動いたり、止まったり、音を鳴らしたりします。その行動を感じ取った他者がまた新たな動きをしていくことで、「気配」が連鎖していきます。このように、不特定多数の人間が自然と集まってお互いの気配を感じとることができる空間を製作しました。