学部4年
金丸 茜|KANEMARU Akane
熊谷 陸|KUMAGAI Riku
宮内 ナナミ|MIYAUCHI Nanami
柚木 海音|YUNOKI Kanon
うさぎの絵本『アンドレのすみか』
-----H2400×W3000×D3000(mm)
画用紙、水彩、ベニヤパネル、アクリル-----
1、計画 生まれ持った環境や性別によって起こる苦しみが、今の自分にとって一番の悩みだった。そこから自分たちですら見分けがつかないほど全く同じ顔・身体を持ったうさぎたちの絵本世界の設定を思いつく。外見差が完全にフラットになったとき、このうさぎ達には一体何が残るのか。個性を自由に奔放に表現できるのか。どこまで自己プロデュースが必要になるのか。考えていくほど意識は内在的な方へ深く向かった。 『私が私であることは、あなたがあなたであることは、どういうことなんだろう。』 これがずっと頭の中に居座った。人は身体も精神も留まり続けることはしない。過去の自分の考えたことは今の自分からしたら別人級の価値観の相違も多々ある。私が『私』であることは常に流動的で不確かだけれど、ずっと変わらず私であるのはこの身体の心臓が動き続け、血が巡り、今もここに生き続けていることで成っている。そういえば『私』の始まりも、母の中で体ができて、心臓が動いて、外界に出てきたことで始まっていた。 命を継続して、さらに『私』を継続することは、日々のなんてことなのないことが紡がれて、自分が次の『私』へと流れていくことだ。うさぎの絵本の形でどうにか表現しようとした。 2、描いてみて うさぎのアンドレが自分の部屋の中で日々暮らしている様子を描く。 人が日常の中で最も他者が介入することなく生命活動を行っているのは自分の部屋の中だと思った。生活と共に部屋の中に現れてくる変化は読者にアンドレの内在的変化を視覚的に伝えられるかもしれない。絵本の中の視点をアンドレの部屋の内観パース一点に留め、その中で当たり前に存在している自然条件や自分の体調、自分の好みなどと付き合いながらアンドレの時間が流れていく。物語は春の朝から始まり、昼になり、部屋の中の日の光も傾き、夜になる。一つの空間の中で季節が巡る。 建築はもちろん便利な機能を持たせることもできるが、明日の自分の内面性を形成させるほどの力を持っていると思う。 部屋の中の空間性は、次の自分への変化を受け止めて、またときに働きかけ、『私』を流動させていってくれる。 絵本の表表紙は最初の春の部屋の状態で、裏表紙が再びやってきた春の部屋の状態になっている。 この絵本を読み終わったときに、椅子や本棚、ハンガーラック、お皿などの数や位置が変わっていることがどういうことなのか、生活の中にあるものが私とあなたとどれほど共鳴しあってそこの在るのか無くなるのか生まれるのか、私自身感じられることが増えて見えてくるといいな。
海老原 美那|EBIHARA Mina
覗き見
-----H2700×W4700×D6000(mm)
木材、石膏ボード、モルタル など-----
小説や映画などの「フィクション」と我々が暮らす「現実」、その境界はどこにあるのだろうと考えるようになり、「覗く」という行為によって分けられていると結論づけました。なぜかというと、まず映画鑑賞や読書という行為はつまりフィクションの世界を覗いていることと同義です。そしてその「覗く」という行為は背徳感やスリル、好奇心など様々な感情をわき起こします。これはとても「エンタメ」的です。 つまり、我々は「覗く」というエンタメ的行動を挟むことによって「フィクション」という存在を確立しているのだと考えました。それならば逆に我々の「現実」も「覗き」という行為を間に挟めば「フィクション」だと思わせることが可能なのではないか。そしてそれは今まで区切っていた「フィクション」と「現実」の境界を曖昧にして新たな認識を生み出すことができるのではないか。そう考えたのがきっかけで今回の作品を制作しました。
加藤 麻那|KATOU Maya
山岸 尚史|YAMAGISHI Naofumi
クロス
-----H3500×W9500×D35000(mm)
ビニール紐-----
誰も訪れなくなってしまった敷地に対し、『隠す』というアプローチによって魅力を引き出し、内に引き込む。
大学院2年
原田 実季|HARADA Miki
深層に巡る
-----H2400×W1500×D7500(mm)
プロジェクター、スピーカー、布、木材、他-----
私たちを取り囲む空間は、ただ一次元的に成り立っているのではない。 空気中に含まれる水滴や、蓄積した時間のような、目には見えないが確かに存在する物たちが、 細かに連動し合いながら空間は形作られている。 昨年訪れた高野山奥之院や伊勢神宮で、このことをより確かに感じた。 その場を歩きながら、その場に満ちる小さな一点一点に気付かされ、またそれらが作り出す うねりと一体となっていくように感じた。こうした感覚は、入り口から奥へ、自分の体と時 間を使って歩くという過程を通して形作られたものであると考える。常に連続するもう少 し先への予感、歩きながら気付かされる光や陰影、少しずつ変化する空気。そういった一つ一つの要素が私をより深く空間の中に没入させ、また今は見えない遥か先の どこかへのイメージを形作っていった。 今回の作品ではこうした、ある過程を通して一つのイメージが形作られる瞬間をテーマに制作を行った。前半部分の細い通路では、死角になった前方から伝わる気配を辿りながら先へ進み、 最後の空間では時間や重力やパーソナリティといったようなものから離れ、ただ作品の世界と一 体となっていく瞬間を目指した。